岡山地方裁判所 昭和42年(ヨ)317号 決定 1967年12月25日
申請人 江草昭治
被申請人 山陽放送株式会社
主文
申請人が被申請人の従業員である地位を仮に定める。
被申請人は申請人に対し昭和四二年一二月から本案判決確定に至るまで毎月二五日に金四四、三六〇円を仮に支払え。
申請費用は被申請人の負担とする。
(注、無保証)
理由
申請人提出の疎明資料によつて当裁判所が一応認定した事実およびそれに基づく判断の要旨は次のとおりである。
一、申請人は、被申請会社の従業員であり、山陽放送労働組合の書記長であるが、被申請会社が昭和四二年一一月従業員に「従業員考課表」を配布してその記入提出を求めたのに対し、その内容が不合理であるから右要求に応ずべきではないとの組合の決議により、右「従業員考課表」を白紙で返上したところ、被申請会社は、同月二四日、申請人を右記入拒否の企画、指導責任者として同月三〇日限りで懲戒解雇処分に付する旨の意思表示をした。
二、被申請会社が人事管理の一環としていわゆる自己申告制度を採用することはその専権裁量に属することであるから、右制度が適正に実施される限り、従業員としてはそれに伴う被申請会社の指示命令に従う義務があるといえるが、右制度は人事考課を適正に行い、適材適所に従業員を配置することをその基本的な目的とするものであるから、その実施が適正であるためには、まず従業員に自己申告を求める内容が右制度の目的に相応しいものでなければならない。しかるに、被申請会社の「従業員考課表」の内容は要するに従業員の被申請会社に対する貢献度を自己申告させるものであつて、はたして人事考課の適正化に資するところがあるのか疑わしいものであるから、これが組合員の差別待遇に利用されることをおそれて組合が記入拒否の決議をしたことは一応無理からぬことであつて、右決議に基づき「従業員考課表」を白紙で返上したことをもつて申請人を懲戒解雇に付したことは、その組合活動を理由とする解雇にほかならないから、右解雇は不当労働行為である。
三、なお、申請人は被申請会社から毎月二五日に給料を支給され、その額は同年五月現在本給四万一、八〇〇円、通勤手当一、五六〇円、勤務手当一、〇〇〇円であるが、本案判決が確定するまでその支払を停止されることは申請人にとつて堪えがたいことであるから、本件仮処分の申請はその必要性がある。
よつて、本件仮処分の申請はこれを認容すべく、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 五十部一夫 金田智行 小長光馨一)